ページ作成:2023/6/29
概説
1985年(昭和60年)に登場したNakamichiのCRシリーズ。そのフラッグシップモデルが、このCR-70です。外観も新しくなり、新時代のNakamichiデッキとも言えるシリーズです。特にCR-70は、Nakamichiデッキにおいて実質最後のフラッグシップデッキとも言われます。この後に定価20万円クラスのデッキが登場することはありませんでした。(ただし旧モデルでもDRAGONやRX-505は、CR-70登場後も継続生産されていました)
数々の超高級デッキを生み出してきたNakamichi。最高峰の1000ZXLをはじめ、700ZXL、ZX-9、682ZXなど、カセットデッキの限界を追求すべく徹底的にこだわり抜かれています。CR-70も同じく、音に対する追求はもちろんですが、利便性にも重点を置いている点ではこれまでの超高級デッキと少し志向が異なります。
CR-70の特筆すべき機能は4つ。オートキャリブレーション、アジマス調整、リモートコントロール、テープセレクターです。簡単に各機能をご紹介します。
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[オートキャリブレーション]CR-70ではボタン一つで自動的に録音感度とバイアスを調整する方式が採用されています。所要時間は15秒程度と、Nakamichiの中では最速です。さらにリチウム電池を搭載しており、電源を切っても最後に調整した状態が各テープポジションごとに記憶されます。
[アジマス調整]調整ツマミを回すとモーターでヘッドを動かす電動式となっています。再生ヘッドのアジマス調整といえばDRAGONと対比されると思います。DRAGONの自動アジマス調整(NAAC)は前代未聞の画期的な機能ですが、デッキが全て制御している分、時には不安定になる事も。実はCR-70の手動調整で、人間の耳で確実に合わせる方が便利に感じることもあります。(管理人は手動派)
[テープセレクター]1985年当時はオートテープセレクタのデッキが多数派になってきた頃です。一方Nakamichiは頑なに手動式を採用してきましたが、驚くことにCR-70は自動・手動どちらにも対応しています。全カセットデッキの中でも非常に珍しい機能です。(他にはAKAI GX-F95が強制的にメタルに切り替える機能を装備)自動と手動を切り替えるスイッチがあり、テープポジションのほか再生EQだけ独立して120μs/70μsを切り替えることも可能です。
[リモートコントロール]無線リモコンに対応しています。ある程度新しい年式のデッキであれば特に珍しくありませんが、Nakamichiでは唯一の装備です。極めつけは無線リモコンでアジマス調整ができてしまう事。今いる場所から移動せずともリモコンで遠隔操作ができます。
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メカニズム部分は、CRシリーズ全機種が社外製となっています。TRIO/KENWOOD、YAMAHA、TEACのデッキでも採用されている同型のメカです。しかしCR-70は前述したように、アジマス調整機構を搭載しています。つまりは社外製メカをNakamichi仕様に、いわば魔改造したような機構となっています。外からは見えませんが実に面白い機構です。ヘッドは、新しいタイプのクリスタロイヘッド(P2H-3L型、R-3L型)が採用されており、旧い機種と比べると音はカッチリしています。
他にも細かな部分では、ハブの回転速度を計算して現在の走行位置を分数で表示するカウンターがあります。これはリアルタイムカウンターと呼ばれ、マイコンの計算によって現在再生している位置を分数で表示します。これを逆算してテープの残量を表示するモードもあります。他社のデッキによくあるリニア分数カウンターとは表示方法が違い、途中でカウンターリセットはできない点が特殊です。
絶対的なスペックはもちろんの事、利便性も追求した結果、変態要素も有する形となっているCR-70。単純に良いだけでなく、非常に面白いデッキとして評価しても差し支えのない1台です。
なお下位機種のCR-50では、オートキャリブレーション、アジマス調整、リモートコントロールの機能が省略されます。代わりに手動のバイアス調整が可能になり、好みでバイアスを調整したい方にお勧めです。
CR-70の構造&搭載機能
ヘッド | 3ヘッド方式(クリスタロイヘッド 録音:R-3L型 再生:P2H-3L型) |
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メカニズムの駆動 |
ロジック制御 (カムモーター+ギヤ駆動) |
キャプスタンの回転 | ダイレクトドライブ (FGサーボ方式) |
テープの走行方式 | クローズドループ・デュアルキャプスタン |
カセットホルダの開閉 | 手動(弛み取り機能あり) |
スタビライザー | なし |
テープセレクター | 自動/手動を切替可 (検出孔がない初期のメタルテープも録音可) |
ノイズリダクション | ドルビーB/C |
ドルビーHX-Pro | なし |
選曲機能 | なし |
メーター | デジタルピークレベルメーター (0dB=200nWb/m,ピークホールド機能の入り切り切替可) |
ライン入力 | RCA端子1系統 |
ライン出力 | RCA端子1系統(可変レベル出力) |
キャリブレーション機能 | 自動式 (テストトーン周波数:400Hz・15kHz) |
カウンター | 4デジット,リアルタイムカウンター,テープ残量表示 |
その他の機能 |
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CR-70の利点&欠点
◎CRシリーズの最上級機 (Nakamichiの中でも利便性を重視)
◎テープセレクタは自動と手動を切替できる(非常に珍しい機能)
◎Nakamichiで唯一リモートコントロールに対応
◎アジマス調整機構を搭載 (再生ヘッドのアジマス調整をリモコンでも操作できる)
○オートキャリブレーション搭載
(電源を切っても設定値が記憶されるバックアップ機能付き)
△メカニズムが社外製
(社外メカが魔改造されているという意味では面白いかも)
△自分好みでバイアス調整ができない(CR-50なら可能)
△メモリーバックアップが良し悪し
(電源を切っても調整値が記憶されるため初期設定での録音ができない)
録音サンプル
テープ:RECORDING THE MASTERS
ノイズリダクションOFF
音源:Nash Music Library
※オートキャリブレーション適用
【フュージョン・ロック】容量53.0MB
【テクノポップ】容量58.2MB
96kHz-24bitのためデータ容量が多くなっています。ご注意ください。
外観の詳細画像
デッキの内部
オープン・ザ・キャビネット
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メカニズムの分解画像
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電子部品リフレッシュ
オーナー様からのご依頼で、古くなった電子部品を新しくする作業を実施しました。
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オートキャリブレーション信号音
※信号音は10秒ほどですが、実際は早送り・巻戻しの工程もあるため15秒ほど掛かります。
参考周波数特性
【TYPEⅠ】RECORDING THE MASTERS (現行テープ)
【TYPEⅡ】TDK SA (1987年型)
【TYPEⅣ】TDK MA (1988年型)
※ヘッドの状態やデッキの調整状態など個体差により、必ずしも同じ測定結果にはなりません。あくまで参考程度にお願いします。
YouTube動画でも紹介しました
・埼玉県 MA-Rさん(2023年6月撮影)